mirage of story
「それにしても、いつの間に。
さっきまで気配は無かった。
それに.....後ろは湖、船もなくどうやって越えてきた?」
そう言いライルは、私の後ろに目をやる。
広がるは広大な湖。
大地に空けられた巨大な穴に満々と湛えられる水。
それを越えるには、どうあっても人の力だけでは無理だ。
それも一人きりで、それは幼子にさえ分かるほど明らかに不可能。
もちろん、ライルもそれを知っている。
だからそんな疑問を、私にぶつけるのだ。
それでも私が今こうして此処にいるということは、つまりその不可能を越えてきたということになる。
そして私は、その事実を否定はしない。
「しかも一人とは.......ついに観念して、わざわざ俺に殺されに来たか?
ルシアスを殺した報いを―――受けるべき正当な制裁を、自ら受けに来たか?」
問いに答えない私に、彼は言葉を重ねる。
寒々しくて冷酷で、痛くて哀しくて。
私はその全ての感情を、逃げることなく全身に受け止める。
「........違う。
言ったでしょ?私は貴方との決着を着けに来た。
貴方との、けじめを」
私は言う。
本当のことを、本当の今の気持ちを。
その私の言葉に、ライルの眉がグッと潜められる。
眼光が一層に険しくなる。
「つまり大人しく罪を報いに来たわけじゃないということか。
........やはり、お前は人間は世の中の底辺にも満たない最低の生き物だ。
大人しく死ぬ気が無いなら―――この手で斬り伏せるまで」
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