mirage of story
あくまで彼の瞳に映る自分は、紛れもないシエラという憎き相手。
そんな彼から出た斬り伏せるというその言葉は、つまりは私に対して殺すという宣告と同じ。
そしてスッと剣を構え直す彼の瞳からは、人に備わる優しさというものは一切消え失せていた。
「剣を構えろ!
大人しく殺されるつもりがなく此処へ来たのなら、斬り合う覚悟はあるはずだ!
.......その剣ごと俺がお前を斬り伏せる。
お前のその血で、ルシアスに犯したお前の罪を洗わせてやる」
ギイィィンッ。
ライルの剣が唸る。
まるで私の命を、欲しているように。
「.........分かったわ」
胸が、痛かった。
私の大切な人が、私を殺そうと剣を向ける。
彼が抱くのは、人が抱く感情の中でもっとも哀しく醜い憎しみだけ。
今の私、愛はない。
胸が痛まないはずがない。
キイィンッ。
それでも私は言われるがままに、剣を手に取った。
鞘から抜く時の甲高い金属音が、いやに耳を突く。
「それでいい」
向かい合い剣を構える。
その先に見えるは戦いで、そのまた先にあるのは死。
そのことを、私達の立つすでに戦場と化していた大地に横たわる屍達が明快に語る。
私が死ぬか。彼が死ぬか。
あと一歩前に踏み出してしまえば、そのどちらか以外に戦いを終わらせる方法はなくなる。
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