mirage of story










『........私、いってきます』




でも。それでも私は、あえて『さようなら』という別れの言葉を使わなかった。



さようならと言ってしまえば、もう本当にそこで終わりになる。

でも、いってきますという言葉なら。その言葉になら続きがあると思ったから。
『おかえりなさい』そんな言葉が、私を待っていてくれる。
そんな気持ちがしたから。


だから私は、後ろを振り返って笑ってそう言った。










――――バッ。

そして私は窓の縁に掛けていた手で踏み切り、そのまま背を向けて窓から身を投げ水竜へと飛び乗る。


いってきます。
その言葉の返事も聞かずに、自分の気持ちを押し切るようにして。

背を向けた後ろをもう一度振り返り、カイム達の姿を見たかったがその衝動を抑えて私は水竜に『行こう』と声を掛けた。







ザアァァッ。

水竜の背。そして私。
私の言葉に水竜は軽く頷いて、言われるまま凄い勢いで空へと飛び上がった。

物凄い風の圧力が私を一瞬襲うが、それは本当に一瞬で気が付いた時にはもう雲の上。
まだ明けていない空の雲の上は、神秘的な真っ白い空間だった。




『......っ』


そんな空間でついに耐えきれなくなって後ろを振り返るが、当然この瞳に映したい人の姿は見えなくてグッと胸が締め付けられた。











"................こちらから血と争いの匂いがする。そして残酷な程に深い闇の匂いもだ。
我等が向かうべき場所はきっとこの向こうぞ。

―――我が契約者よ。
聞くのはこれで最期だが、本当に良いのだな?"



水竜が見る先を見るが私に見えたのは、ただ広がる雲だけだった。

だがきっと私と同じ先を見つめる水竜のこの瞳には、私には見えないものが見えているのだと思った。
その先にある、私の目的が。



私は締め付けられる胸のままに、何も言わずに一つ頷く。
それが私の意思表示で、水竜はそれを受け取った。









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