mirage of story









その笑みは、死を前に精神が壊れたようなそんなものではない。
死を前に生を諦めた笑みでも、死の恐怖から逃れるための強がりの笑みでもない。


彼女の浮かべた笑みは、至極穏やかなのだ。
恐怖は全く見られない、でも何処か哀しそうに彼女は笑うのだ。







世界の中で一番に憎しみを抱く相手。大切な人ルシアスの仇。

ずっと殺したかった。仇を討ちたかった。
そのために、ライルはあれから五年を生きてきた。




それ以外、何も考えずに自分の全てを捨ててライルは生きてきたというのに。
........なのに穏やかに笑うシエラを前にして、ライルの心は彼女への留めを躊躇った。










「お前は何のために此処に来た!?

お前も俺を―――魔族を恨んでいる、憎んでいるはずだろう?
此処に自らやって来たのは、俺を殺すためだろう!?」






地に伏せるボロボロの彼女。
自分の手でこんなにしてしまった彼女を前に、震える剣先を突き付けて叫ぶように言う。



相手はもう逃げることも出来ない状況。
握り締めるその剣をほんの少し前へと突き出せば、望み続けていたルシアスの仇が討てる。

そう分かっているのに、どうしてもライルの身体は動かない。
心では行けと望んでいるのに、身体は必死になってそれを拒む。


















「私は..........」



気持ちと行動の矛盾に動揺するライル。
その動揺を上から感じてシエラは閉じた瞳を開いて、重い口を開く。

色を失いかけた彼女の唇から零れる声は、吐息のように小さく弱々しい。











「私は.......私は貴方を......傷付けたくはない」



「な....に?」








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