mirage of story
真剣でそして何処か冷めた瞳でキトラは、自分からそして現状から目を逸らす情けない大人達に向けた。
それは蔑みか、失望か。
それからスッと一礼。
その後、キトラは身を翻してその足で地を蹴り大地の向こうへと走り去って行った。
「..........」
キトラは全速力で、地平線の向こうに消える。
あっという間にその影は遠ざかり、誰もが何も言えずにただ立ち竦んでいる間に見えなくなった。
此処に来て数刻も経たぬうちに彼はまた去っていく。
此処へやってくるという行動から、次はまた新たな行動を起こすために。
危険があると分かっていながらも、まだ幼さの残る彼は自らの意志で。
この状況を打破しようと。
「..........あんな子供達が一生懸命に前に進もうと、危険を冒してでも向かっていくっていうのに。
俺達は、俺達は一体何をやっているんだろう」
走り去った彼の姿はもう見えはしないのに、誰もがずっとそこから視線を離すことが出来ないで居た。
虚無感。脱力感。
そして自らに対する嫌悪感。
そんな勇気ある彼の姿をもう見ることは無いとは、この時誰も知り得なかった。
これが彼の、キトラの最期の姿だとは誰も知り得なかった。
キトラが居なくなった空間の中にそんな色んな感情が入り混じって、少しだけ空気が淀む。
まるでこれから先の暗雲を想像させるかのように、世界に暗い気配が立ちこめていた。
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