mirage of story
ロアルはこの世界から、そして彼の大切な人達から沢山のものを奪った。
ロアルは全ての者の運命を狂わせた。
決して許せない。
許されていいものではない。
カイムは例えロアルが血の繋がる父親であろうとも、そのような最低の輩ならば自分の中から切り捨てるつもりでいた。
親子としての縁などすぐに捨て去り、シエラと共にした日々で得た目的を何の躊躇いもなく果たすつもりでいた。
ただロアルが、気が狂っただけの最低の父親だったのならそうしていた。
だけれど今のこの現状の元凶は、そんな浅いものではなかった。
その元凶の根は深い。
当事者であるロアル自身は愚かカイムも、そしてシエラ達など世界に生きる全てを巻き込んだ壮大な陰謀の波に知らぬ間に飲まれていた。
カイムは確かに父がしたことは許されるものではなく、浅はかなものだと思った。
だが表面だけでない奥深くの真実と向き合えば、自分の存在こそが最低なのだと実感した。
世界のこの現状の元凶の一番根深いところに、自分が存在していることに絶望した。
父は―――ロアルは、彼のためにカイムのために自らの全てを犠牲にしてあのようになったのだ。
カイムの存在。
カイムへの、子への愛情。
その因子が無ければ、このような今は無かった。
「................俺はずっとシエラの仲間だと、味方だと思っていた。
そうでありたいと願っていたよ」
苦痛に顔を歪めるカイムは幾らか長い間を置いて口を開く。
「だけど、俺には幾ら願ってもそんなことは無理だった。
そんな資格、俺はもうとっくの昔に無くしていたんだ。
俺は貴方と共に時を越えて良い存在じゃなかったんだ」
声は哀しい。
カイムは自らの深い紅の瞳に映し出されるシエラの姿を哀しく見つめた。
状況を飲み込めず呆然とこちらを見る彼女の姿に、グッと胸が締め付けられて苦しい。
瞳をこれ以上合わせるのが怖い。逸らしたい。
だけれどその衝動に耐えてカイムは彼女を見続けた。
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