mirage of story
そのうちに、彼女の瞳は蔑みの目に変わるのだろう。
ロアルは彼女の大切な人の仇。
それも魔族としての彼女にとっても、人間としての彼女にとっても。
そんな奴が今まで仲間面をしていた訳なのだ。
彼女にまだ全てを話したわけではないが、軽蔑されるには充分な要素だろう。
ニタリと不気味に笑うロアルも、そのことを判っているのだろう。
今まで仲間だ味方だなどと信じていたカイムとシエラの間に深すぎる亀裂が迸るその時を、今か今かと待ち構えているのだろう。
絆と信頼が壊れる瞬間を。
「.............そんなこと、貴方が決めることじゃない。
私にとってカイムは、貴方は貴方が思っているような存在じゃなかった。
大切な存在よ。
今までも今もそれは何にも変わらない」
「――――」
「私が私であるみたいに.......シエラと呼ばれてもルシアスと呼ばれても、人間であっても魔族であっても私は私のままだったように。
例え何があっても、カイムはカイムで変わりはないんでしょう?
そんな表面だけの事実で、全てが消えたりするほど私達の繋がりが浅かったなんて私は思いたくない。
貴方が貴方である限り、私は何も変わらないわ」
返ってくるは軽蔑ではなく、澄んだ真っ直ぐな言葉。
逸らさなかった視線に映ったのは、軽蔑の冷笑ではなく柔らかな微笑み。
予想と反するその反応に、カイムは呆然と彼女を見る。
その後ろでは、ニタリと楽しむような笑みを浮かべていたロアルの表情が歪んだ。
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