mirage of story
人の気を帯びない闇色の視線はそれからまたシエラへと戻され、そして彼女を通り越して今度はカイムへと移される。
舐めるように動く視線が、空間を淀ませる。
「.......そしてカイムよ。
お前に与えられしその役割は誰のものよりも大きい。
お前はこの争いのこの混沌の、我の望みを叶えるその根幹。
お前の存在こそが引き金。世界の終わりへのその引き金。
お前の存在が無ければ、全ては此処へ至らなかった。
我がこの世界の表舞台へと、再びこうして地の底から這い上がることも無かった」
それから一拍の間。
「お前さえこの世界に生まれて来なければ、世界も終わりを迎えることは無かったというのに。
........そしてお前の父も、我に魅入られ自分を失うことは無かったというのに。
世界はお前達の言う"平和"というものであったはずであるのに。
お前は我を討つというが、この世界で最も醜悪な存在―――それは我ではない。
お前自身ぞ、カイム」
もう人ではない父と、その全てを悟る子。
それをシエラの水色の瞳とライルの青色の瞳が重なり見つめる。
流れる静寂な数秒の沈黙。
父の姿を被った闇の冷たく鋭く残酷な言葉。
哀しいほど冷静に見つめる子。
向き合う姿はあまりに哀しい。
この親と子もまた、この闇の被害者。
ただ彼等は他の者達よりもずっと深く、闇に飲まれてしまっただけの哀れな人。
「............判っています。
でもだからこそ、この手で終わらせるんだ」
はっきりとした声で、カイムが言った。
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