mirage of story
シエラに迸る悪寒。
その先に在るものを見たくないという彼女の心の声とは裏腹に、濃厚に空間を濁す土埃が次第に治まり始めていく。
―――。
すると視線の端に一色。
彼女の知っている深い青。蒼。
「ッ!
ライ.....ル―――――」
シエラはその青を呼ぼうと叫ぶ。
だけれどそれを遮るように、彼女の意識は止んでいく土埃の中でもう一つの色を見つけてしまう。
視線の端にある青よりもずっと強く意識を引き付ける、彼女の水色の瞳の中心を独占する紅い色。
土埃ではっきりとは見えない。
だがそれでも分かる、彼女の目の前に背を向けて立ちはだかる彼の姿。
「.............彼女には、指一本触れさせはしない」
シエラが再び声を上げようとしたその時、それよりも先に空間に響かせるのは紅の声。
彼にしては低く凄みの利いたその声は、とても静かで落ち着いていた。
だけれどそれでも、はっきりと聞こえた。
意識の端では、目を覚ました青の気配。
視線の端で伏せていた地面から起き上がるのを感じて、一時ほっとする。
彼は私と同じように、吹き飛ばされただけで無事のようだった。
だが。
――――ポタッ。
再びに感じる生温い感覚に、一時の安堵感は跡形も無く打ち消される。
地に突く手の甲に感じる水滴の落ちてくる感覚。
ふと視線を落とすと、手の甲には目の前に立ちはだかる紅と同じ色。
鮮やかな紅の血。
見た瞬間に、息が詰まった。
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