mirage of story









バッと反射的な速さで視線を前へと戻す。

土埃の靄。
それが晴れて見えてくる目の前の彼の、カイムの姿の輪郭。














彼は、大きく手を広げていた。

彼女を―――シエラをその全身で守るように。
彼女に背を向けて、向かってくる全てを自分が負うように。



そしてその身体に、決して見えてはいけないものが彼女の意識を横切る。



自分を守るように目の前に立ちはだかる彼の後ろ姿―――その背に突き刺さる鈍く鋭利な煌めき。

ちょうど彼の胸の辺りを貫くように、それは煌めく。
そしてそこから滴るのは、彼女の手を湿らせた紅い色。












「彼女には―――彼等には未来がある。

その未来の邪魔を、もう貴方には......させないっ!」



背を向けたまま。
自らの身体を貫く鈍い煌めきを残したままに、カイムは叫ぶ。

滴り落ちる血。
叫ぶ彼の額から滲み出る脂汗。




嫌。
嫌だ、嫌だ。

シエラは自分のものではなくなったかのように震える身体で、完全に晴れた土埃の中で前を見た。
















"小賢しい真似を"



立ちはだかるカイムのまたその向こう。
彼の姿と重なって見えないもう一人の低い声がした。






ザシュッ.......。


聞こえた声に意識を持って行こうとするその最中、それを遮る嫌な音。
その音で目に映る彼を貫いていた鈍い煌めきが消えて、代わりに鮮血が散る。

散る鮮血は、彼を見上げる彼女の頬を汚した。








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