mirage of story









「........い....や」



真っ白になる頭の中。
目の前に立ちはだかっていた紅は、飛び散る鮮血と共に力を失い崩れる。


崩れるカイム。
視線から外れていくその姿の後ろには、今まで彼と重なり見えなかったものが覗く。

それは血に塗れた剣を片手に笑うロアル。












ドサリッ。

頭の中が真っ白になったシエラの前に、倒れた彼が横たわる。
倒れたその身体から、地面に血が滲み湿らす。






「くっ......」



誰が見ても明らかに、傷は深く助からないと判った。

普通ならば、助からない。
胸を剣の刃が貫いたのだから、本来ならばその時点で命は尽きているはずだった。












「はぁ.....はぁ....っ!

―――大丈夫....大丈夫だから、そんな顔をしなくていいから。
父に、この闇に俺は殺せない.......」


「カイムっ!」




絶対的な致命傷。
だがまだ彼は、カイムは生きている。


彼の身体から流れ出る血は夥しく、彼の顔は蒼白し痛みに歪む。

だがそれでも、カイムはその紅の瞳を閉ざしはせずにシエラを見つめる。
そして取り乱す彼女を宥めるように、穏やかに笑うのだ。









「!?」



ダッ。
シエラの視線の端で倒れ込んでいたライルも、その事態を把握して駆け寄り闇に抜剣する。

さすがは軍人。
動揺の最中でも剣先は敵の喉元から振れずに構えられ、地面に張り付くような無防備な二人を守るように闇に飲まれたロアルと対峙する。







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