mirage of story
「だから、お願いです。
..........せめて今だけは、俺に彼女を守らせて下さい」
ポタッ―――。
滴り落ちる血は、いつの間にか止まっていた。
真っ直ぐにロアルを見つめ剣を向けるカイムは本当に真剣で、表情こそ見ることが出来なかったが強い意志がその背中からは滲み出る。
彼は、本気だ。
生かされているとはいえ人は人。
だけれど今の彼からは、人の域を越えた何か強いものを感じた。
彼には、カイムにはもう一切微塵の迷いも無かった。
「後のことは、ライルさん―――貴方に任せます」
「.......分かった」
向き合う訳でもない。
互いの目を見る訳でもない。
だけれど二人の持つ対なる色は、ピタリと重なる。
シエラを、彼女を大切に想う気持ち。
持つ色や彼女と共に過ごした時間の長さや重みは違えど、その気持ちは共に変わらない。
この二人の男の唯一にして最大の共通点は、彼等の大切な人が同じであるということだった。
「ちょっと.......カイム......ライル!
二人とも何を言って―――」
地面に座ったままだったシエラは勢い良く立ち上がる。
それでも敵を見据えたままのカイムと、そのカイムを見据えたままのライル。
冷静な、二人の男。
一人先程よりもずっと取り乱すシエラは、彼等へと一歩踏み出し迫ろうとする。
「シエラ........本当に、貴方と出逢えてよかった。
――――ありがとう」
ダッ!
だけれど踏み出す前に、カイムの姿はもう遠く離れていた。
最後に聞こえた声は、今まで聞いた彼の声の中で一番に優しかった。
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