mirage of story
闇と共に薄れた身体が―――透き通りかけた彼の身体がそれを物語る。
闇との未完結な契約で生かされていた身体が、ロアルの死で決裂した契約により無に返される。
彼の笑顔は、それを悟って敢えてその笑みを一層に深めた。
「ライルさん―――後のことは頼みます。
彼女を、幸せにして下さい」
だけれど。
だけれどその笑みでさえ、薄れて消える。
まるで霧のように、まるで幻のように。
儚い夢が覚めてしまうように。
元から彼が、ただの幻想だったかのように。
静かに、ただ静かに。
最期の最期に向けられた言葉は、消え行く自分を見て声すら出せずに立ち竦むシエラではなくてその隣に居るライルへのものだった。
彼女にはただ、穏やかで何より優しく温かい笑顔だけ。
他に言葉は向けはしなかった。
ワアァァアッ―――。
未だに止むことの無い歓喜の気配と湧き上がる歓声。
ッ。
そんな世界の空間に溶け込むように、彼の身体は消えた。
存在ごと、世界から。
人々の記憶から。彼女の記憶から。
世界に深々と刻まれたはずの、歴史から。
彼は、カイムは居なくなる。
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