mirage of story












"君のその強さは、闇に狂わされた運命を......背負わさせた宿命を変える力がある。
まぁ、ほんの少しだが。


――――本当ならばあの世界から完全に消え失せてしまうはずだった君が生きたという痕跡。記憶。

あの世界に微細な傷痕さえも残す事を許されなかった君の存在が、今もほんの少しだがあの世界の中で息づいている"





俺の痕跡が、まだあの世界に残っている?


闇との契約により生かされた時間が、その契約の破棄により初めから存在しなかった時間となった。

つまり―――確かに在ったはずのあの時間は、初めから無かったものとして抹消された。
人々の記憶と世界の中では、自分は元々存在しなかったものとして刻まれている。


そのはずなのに、俺の痕跡が残っている。
俺の強さがその運命を変えたと、水竜は言う。






.........ならば一体何処にその痕跡が?


戦いの終わりと共に世界から消え、気が付いたらこの何も無い世界に居た。
この場所には何も無い、だけれど此処からは俺の居なくなった世界を感じ取れた。



目に見える訳でもない。
何かが聞こえてくる訳でもない。

でも此処から、自分が生きたはずのあの世界の今を感じた。




戦いの終わった直後、世界は哀しみの中も闇への勝利の喜びに湧いた。

戦いで命を失った友への弔いも、人間と魔族が手を取り合った平和な未来への兆しも此処から感じた。


そして幾年か前。
彼女と今の彼女にとって大切な人である彼が、崩壊し掛けた世界の復興とその先の平和のために新たな国を建てた。

その時の人々の希望や期待。喜びに祝福。
その全ても、此処で独りきりで感じた。



........だがやはり、そんな感じ取る世界の流れの中に自分の存在は無かった。
自分の居た痕跡を感じることなど、一度さえも無かったのに。








.
< 1,232 / 1,238 >

この作品をシェア

pagetop