mirage of story
―――ゾクッ。
その笑みに思わず興奮して身が震える。
悪い興奮から来るものではない、それは実に良い興奮から来る震えだった。
"...............我は君に、新たなる運命を与えたい。
カイムとしての運命を捨てれば、君自身もカイムとして生きた記憶を失う。
その同じ魂で、カイムとは全く異なる別の者としてまたあの世界で生まれ変わる。
人は輪廻の流れの中に居る。
だが世界は一つではなく幾重も存在する。それ故に再び同じ世界に生を受けることは難しい。
......だが、我は思うのだよ。
君の存在は、あの世界にこそ必要なのだと"
胸が高鳴る感覚。
失われた自分の存在、無にされた自分の存在があの世界には必要なのだと水竜が言う。
無くしたはずの存在価値が、沸々と甦ってくる。
"カイムよ、君に問おう。
.........君はあの世界に―――彼女が、彼等が居る世界に還りたいかね?"
.........還りたい。
還りたい、もう一度あの場所に。あの世界に。
例え自分が自分で無くなったとしても、この魂でまた彼女と同じ世界で生きたい。
真っ直ぐな気持ち。
偽り無い素直な気持ち。
溢れるような想いに、水竜は再び笑う。
それはそれは美しく笑う。
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