mirage of story
その歪みは、まるで水に落とした絵の具のように、次第に広がっていく。
そしてやがて、その歪んだ景色のずっと先に、こちらを見つめる一人の人影が現れた。
優しい瞳に、長い髪。
思い出される記憶。シエラの名を呼ぶ、懐かしい声。
―――そうだ。あの人は。
「......母さん?」
間違いない。
あれは、エルザだ。シエラの大切な人だ。
シエラにとっての母同然の存在。
もう、二度と会えないと思っていた大切な人が今、シエラの前に居た。
(ど....どうして?)
遠くに見えた、シエラの大切な人はゆっくりとこちらに近づいて来る。
それを見て、シエラの体は考えるより先にエルザの元へと走り出していた。
(母さん....母さんっ!)
シエラがもう一度エルザと会えることを、どれだけ望んでいたことか。
無理だと分かっていても。
エルザの居る過去にしがみ付いているだけだと言われても、どうしても望まずにはいられなかった。
「――――シエラ」
エルザはシエラの前まで来ると、そう静かに口を開いた。
久しぶりに聞くエルザの声は、シエラの中に優しく響き渡る。