mirage of story
「母さん....!」
シエラは一年ぶりの母の胸に飛び込んだ。
じんわりと、母の温かさが伝わってくる。
「シエラ、ごめんね。
私は....あなたのために何も出来なかった。
―――この一年、一人で辛かったでしょう?」
エルザはそう言い、シエラの頭をそっと撫でた。
その手の温もりが、懐かしい。
シエラの瞳から、とうとう堪えきれなくなった涙が溢れだした。
だが、シエラは溢れ出る涙を懸命に拭いながらエルザを見た。
涙で、せっかく会えたエルザの顔が霞んでしまうのが嫌だった。
だから、無理矢理に涙を拭い止めた。
「私なら....大丈夫だよ、母さん。
辛いことだってたくさんあった....だけど、村のみんなやカイムが居たから――――っ」
シエラはそこまで口にして重要なことを忘れかけていたことに気が付いた。
そうだった。忘れてはいけないことだった。
燃える村。
その中には、村の人たちは一人も居なかった。
しかも、その村の中で魔族であるライルとエルザの命を奪ったロアルが居た。
そのことを、エルザに再び会えたという喜びからか、忘れかけていた。
「そうだ....母さんっ!今、村が大変なことになってるんだよっ!
炎が村を襲っていて、村のみんなが誰も居なくて―――それに、アイツが居たんだ!村の中に。
.....ロアルが」
シエラは、そこで一旦言葉を切った。