mirage of story
そう言い哀しそうに微笑む顔に何だか、胸が傷んだ。
「その聖術で、この場所は守られているのです。
ほら、見ていてごらんなさい」
そう言うと、老人は皺が深く刻まれた手を壁にかざす。
スーッ。
すると老人が手をかざしたかと思うと、次の瞬間に壁が消えた。
今まで在ったはずの壁がまるで透けるように消えた。
その消えた壁の奥には、部屋のような空間が見える。
あの何の変哲もない壁の向こうに、こんな空間が広がっているなんて容易に想像は出来ない。
「────さぁ、中へ。
話は、こちらで致しましょう」
突然のことで驚いていた二人だったが手招きをされ、部屋の中へとゆっくり歩みを進める。
壁があったはずの所を抜けて、広がる空間に足を踏み入れると何だか何かに包まれているような不思議な感覚に襲われた。
「どうぞ、こちらにお座りください」
「ありがとうございます」
シエラとカイムは、勧められるがままに椅子へと座る。
そして、部屋をぐるりと探るように見回すと再び前に視線を戻した。
「────さて、ようやく落ち着きましたな」
老人は笑い、口元に蓄えた髭を震わせる。
部屋の中には、シエラとカイムと老人。
そして一つしかない出入口の前に見張りのような人が二人立っているだけ。
あまり広いとは言えないこの部屋だが、何だか妙に広く感じられた。
それも聖術と彼らが呼ぶ力のせいなのかと、シエラたちは心の中で感心する。