mirage of story
 
 
 
 
 
 
 
 
頭の中で思い起こされる光景は、自分の記憶の中の姿を裏切った廃れた廃墟の街。

人の気配のない閑散とした路地。 




流れる嫌な汗。

重なる、まだ鮮明な記憶。

静けさが、消えてゆく自分の大好きだったあの場所に似ていて────心が痛かった。




この街も、自分の故郷の二の舞になっていまいそうな気がして。
同じ運命を辿ってしまうような気がして。

どうしようもなく、胸が苦しかった。





もうあんな光景は、見たくはない。 

たとえ自分の故郷でなくても、見たくはなかった。







「........この街が、このような廃墟だらけの姿になったのは、つい最近のことです」



しばらく黙っていた老人が、シエラの思考と流れる沈黙を破り静かに口を開く。 





「ひと月程前だったでしょうか、この街に一通の手紙が届いたのです。

送ってきたのは───―思いがけない者からでした」






静かな部屋に、老人の放つ言葉が響き二人の耳へと届いてくる。
 
聖術とかいう不思議な力のせいだろうか。
壁に当たって返ってくる声の余韻が、いつまでも宙に漂う。






「誰から.....だったんですか?その手紙というのは」




カイムは尋ねる。





 
< 289 / 1,238 >

この作品をシェア

pagetop