mirage of story
頭の中で思い起こされる光景は、自分の記憶の中の姿を裏切った廃れた廃墟の街。
人の気配のない閑散とした路地。
流れる嫌な汗。
重なる、まだ鮮明な記憶。
静けさが、消えてゆく自分の大好きだったあの場所に似ていて────心が痛かった。
この街も、自分の故郷の二の舞になっていまいそうな気がして。
同じ運命を辿ってしまうような気がして。
どうしようもなく、胸が苦しかった。
もうあんな光景は、見たくはない。
たとえ自分の故郷でなくても、見たくはなかった。
「........この街が、このような廃墟だらけの姿になったのは、つい最近のことです」
しばらく黙っていた老人が、シエラの思考と流れる沈黙を破り静かに口を開く。
「ひと月程前だったでしょうか、この街に一通の手紙が届いたのです。
送ってきたのは───―思いがけない者からでした」
静かな部屋に、老人の放つ言葉が響き二人の耳へと届いてくる。
聖術とかいう不思議な力のせいだろうか。
壁に当たって返ってくる声の余韻が、いつまでも宙に漂う。
「誰から.....だったんですか?その手紙というのは」
カイムは尋ねる。