mirage of story
「........魔族たちが、王として崇める者。
世界を廻る旅の方ならご存知でしょう。
その手紙を送ってきた者、それはロアルという男です」
ロアル。
ッ。
その言葉に、シエラの心臓は大きく脈打つのを感じた。
(.........あの男が関わっているのね)
シエラの中に、憎悪の闇が渦巻く。
一瞬で、彼女の表情に陰が落ちたのが分かった。
「.........一体、どんな内容だったんですか?
その手紙は」
カイムはそう言うと、ちらりとシエラの様子を伺う。
シエラは自分自身の服の裾を握り締め、静かに前を向いていた。
ただ、服を握り締めるその拳は憎しみからか、微かに震えている。
「......内容は、私達に取引を持ちかける内容でした。
まぁ、実際は脅し紛いの内容なのですがね」
カイムとシエラ。
二人の間に微妙な空気が流れる。
だが、その二人の様子に気付いてはいないらしく長である老人は、苦笑を浮かべながら言葉を続けた。
「取引の内容は、こうです。
この街に在る竜の石をこちらに渡せと。
渡せばこの街の安全は約束すると、そんな内容でしたな」
そういう老人の声が、心なしか低くなる。
「────だが、渡さないのなら、この地に生きる全ての者を我ら魔族の手で消す。
選択権はそちらに与えよう。
.........手紙には、そう書かれておりました」
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