mirage of story
―――。
一気に老人の顔に陰が落ちる。
部屋を照らしているのは、幾つかの蝋燭だけ。
薄暗さを感じていたのは今からのことではないが、より一層暗くなった気がした。
「........取引の日のことです、私達は言われた通りにその石を約束通り渡しました。
黒い瞳に、黒い髪の男に」
「..........ロアル....」
響くその声に、シエラの身体はビクッと反応するように震える。
そして小さな声で囁いた。
「渡した後、何事もなくその男は帰っていった.....正直安堵しました。私達は魔族等の手から逃れられたのだと。
そう思ったのです」
声に掛かる曇りが増す。
「だが今考えれば、おかしかった。
奴は人間を憎む魔族の長。人間の村や街を次々と襲い潰していっている者。
そんな奴の言葉、信用する価値などなかったのです」
怒り。恐怖。
それらが複雑に入り混じる老人の顔は青ざめる。
血の気の引いたその顔が、蝋燭の灯りに照らされて青白く映し出される。
「――――取引の翌日、この街に訪れたのは元の平穏な日々ではなく魔族達の襲撃。
私達は、騙されたのです。
魔族達はそれこそ悪魔の如くに目に入るもの全てを破壊、そして罪の無い街の者を殺しました。
欲していた物が手に入れば、もう用済みだったんでしょう。
そんな奴等の襲撃から逃げ切ったのは、この建物の中に居る者達だけです」
それで街もあの有様なのです、と老人は悲しげに言った。
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