mirage of story
聞こえたのは、布が擦れるような小さな音。乾いた音。
それは、普通なら耳にも届かないくらい小さな音だった。
だけど、今のこの空間に聞こえる音は他にはなかったせいか
その音は、やけに大きくカイムの耳に届いた。
音がした先を見る。
その視線の先は、彼自身が居る所よりも少し奥。
そこには大きな瓦礫の塊があって、その陰から聞こえていた。
カイムの居る所からは、瓦礫の塊が邪魔をしてその先は見えない。
だが、人の気配が.....微かにある。
カイムは剣を構えた。
(.........シエラか?奴等か?)
カイムは構えた剣先を、音が聞こえた方へと向ける。
その刃は薄暗い闇の中に鋭く一筋に光った。
─────────タッタッタッタ.......。
音の聞こえた瓦礫の陰へと歩み始めるカイム。
静かな空間を、カイムの足音が震わせる。
崩れて細かくなった瓦礫が、カイムの足音に合わせて舞い上がる。
瓦礫の陰まで、あと10メートル。
カイムは、まだ前に踏み出す足を止めない。
───────タッタッタッタタ......。
緊張と少しの恐れで、足音が少し乱れる。
瓦礫の陰まで......あと少し。