mirage of story
カイムは、耳を研ぎ澄ます。
自分の足音。
その他にもう一つ、聞こえる音があった。
さっきまで聞こえてこなかった音。
それは、小さな息の音。
相当疲れているのか、弱っているのか少し呼吸は荒かった。
カイムは、歩む足を緩めて、覗き込むように瓦礫の裏側の様子を伺う。
全ては見えない。
だけどカイムの視線の中に散らつく、見覚えのあるオレンジがかった茶色の長い髪が見えた瞬間に
この先にあるものが、カイムには分かった。
──────タッタッタタタタタッ.....。
気付かないうちに、カイムの止まりかけていた足が前へと走り出していた。
瓦礫の塊の横を通り過ぎ、その先へ─────。
早く、早くこの先にあるはずの.....居るはずの人の姿を
この瞳の中に、映したい。
その一心で、カイムは駆けた。
(─────よかった.....)
カイムの心に安堵が生まれる。
その心は、心の中だけでは収まり切らずに表情にまで溢れ出す。