mirage of story
シエラが、ネビアの体を完全にこちらへ引っ張り出すのと
カイムの手が、壁の重さを支え切れなくなり、激しい音を立てて壁が地面に打ち付けられるのは
─────ほぼ同時だった。
「はぁ....ギリギリだったな」
カイムはそう言うと壁を支えていた反動で、思わずその場に尻餅をつく。
「──────ネビアさん、ネビアさん!」
息を切らして、その場に座り込むカイムを横に
シエラは、意識のないネビアの体を揺する。
だが、揺すられる彼女の身体は、ただされるがままに力なく揺れるだけ。
─────反応は、ない。
「....シエラ、あんまり下手に動かさない方がいい。
あんな重いのの下敷きになってたんだ。骨が折れてるかもしれない」
「....そうだね」
カイムの言葉に、シエラの手は止まる。
怪我人を迂闊に動かしてはいけない。
そんな基本的なことを、この状況を前に忘れていた。
「────とりあえず、早くここから逃げよう。
ネビアさんは、俺が背負ってく」
カイムは服に付いた埃を払い、そして立ち上がる。
払われた埃が、ほんの少しだけ空気を白く濁す。