mirage of story
 



 
 
 
ゴオォッ.....ッ。

そこではさっきまで轟音と共に逆巻いていた黒い風が、まるで何事も無かったかのように静かに空気に溶けて行くように消えて行くところだった。


消え去ってゆく風の中。
そこにはもう、何も残ってはいない。

元々そこには何も無かったと思わせるように、ただ大地があるだけ。









「シエラ」



遠く消え行く風を見つめる。
そんな彼女にカイムは声を掛ける。







「.......カイム」



遠く見つめたまま彼女は答えた。

彼女の綺麗な水色の瞳。
そこに映るのはまっさらな大地。

そんな彼女の瞳から零れていた涙は何時の間にか止まっていて、ただ流れた涙の後だけがまだくっきり残っていた。








「.....そろそろ行こう。
長居をすれば、奴等がまた来るかもしれない。
俺達があの街に居ることを知っていてロアルはあんなことを―――そうだったのならば今度は本当に俺達の、シエラの命が危なくなる。

........早く、ここから離れた方がいい」



ッ。




「でも私は、このままネビアさんを放って置きたくはないの」




シエラはカイムの言葉に、視線を横たわるその人に向ける。

――――。
あぁ、せっかく止まっていたのにまた涙が出てきてしまう。








「ネビアさんを、彼女をこのままにしておくっていうの?
カイムは、そんな残酷なこと出来る?」







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