mirage of story
それが彼が兄貴と呼ぶ人。
「兄貴.....本当に何処に行っちゃったんだよ」
一度口に出したら、次々と感情が溢れてきた。
本当ならば駄目なこと。
だが今は幸い一人、誰にも聞かれてはいない。
――――。
この街にキトラは命令で任務遂行のそのためにやって来た。
魔族の軍人である彼が所属する先鋭部隊の任務とその命令で。
任務。
やらねばならぬことは二つある。
一つは五年前の人間達の襲撃によって亡くなられた魔族の姫―――ルシアスの指輪を今それを持つ人間の娘から取り戻すこと。その娘を捕らえ指輪を奪還すること。
これが第一の任務である。
そしてもう一つの任は、先の任よりも優先されるべきものでは無いが彼にとってはこちらの方が重要であると言えるその任務。命令。
「もしも本当に今この街に兄貴が居たら―――もしも隊長や皆とばったり出逢ってしまったら。
.........」
求めているはずなのに、祈るのはその人が此処に居ないこと。
一見矛盾している感情。
だが今のキトラの心境であれば、誰もが同じことを考えるだろう。
会いたいその人。
そして今の自分が背負う任。
それらは無情に直結し合っていて、その間に彼が居た。
板挟み、それよりももっと残酷な状況に彼は居た。
「..........兄貴は絶対に、殺される」
確信があった。
―――。
彼が、キトラが求めるその人は彼等が任務を課せられてまで追うべき者。
"反逆者"
求めるその人は今では名よりも先にそう呼ばれる。
そう。彼の慕うその人は半年程前に誰にも何も告げずに軍を、国を出ていった。
裏切り、出奔した。
「.........」
もう一つの任務は、反逆者―――そう彼が兄貴と慕う"ジェイド"の討伐。
「───俺は兄貴を殺せない」
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