mirage of story
『......分かってるさ。
俺はお前より、遥かに長く此処に居るんでね?
此処の掟―――そうさ、裏切り者がどうなるかってのもよく知ってるつもりさ』
――――。
そう少し呆れたように言うと、兄貴は笑った。
だが、その笑顔はすぐに消えてしまった。
『裏切り者に反逆者に待ってるのは、汚名を背負って追われ続けた果ての死だってことくらい判ってる。
────だがな、キトラ。
俺はもう決めたんだよ、それでも俺は此処を出てく』
兄貴の言葉が、俺の胸の中に刺のように突き刺さった。
......。
何か言わなきゃ。
何か言って、引き止めなきゃ。
そう思ったけど、あまりに兄貴の顔が真剣で俺は何も言えなかった。
『────じゃあな、キトラ』
ッ。
そう言って、大きな手で俺の頭を一回ポンッと叩きそのまま背を向けて、遠ざかっていく兄貴。
会った時と同じように乗せられた兄貴の手の重みが、何だかやけに重く感じた。
行かないで。
行かないでくれ、兄貴。
どうしてあの時俺は、何をしてでも去っていく兄貴を引き留められなかったのか。
どうして、何も出来なかったのか。
部隊を去る。
兄貴がそのことを告げていたのは、俺だけだったというのに。
引き留めることが出来たのは、俺だけだったのに。
胸の中に溢れる想いと後悔。
だが、その想いは届くことはなく兄貴はもう俺の元には居ない────。
.