mirage of story
(────足、完璧に痺れてるよ)
そうだ、忘れていた。
今日の彼は、踏んだり蹴ったりなのである。
急いでいるというのに、全く。
無理矢理歩けばきっとまた転ぶだろうと、彼は焦る気持ちの中で足の痺れが解けるのを暫く待つ。
―――――。
待つこと数十秒。
ようやく足の痺れが治まってくれた。
よし!と、彼は気を取り直して歩き出すことにした。
「まず、隊長を捜さないと。
何処かで聞いてみようかな」
隊長を捜し出すためには、まず情報が必要だ。
.......。
そう思ってはみるが、案の定こんな細くて暗い脇道には捜しても周りには誰も居ない。
少し歩けば、大通りで溢れる程に人は居る。
だがあの人込みに揉まれるのはもう御免だった。
大通りを外れた脇道。
人の姿はなくて、代わりに様々な建物が並ぶ。
――――。
仕方が無い、何処か店を訪ねるしか無いか。
そう思い、キトラは細い道を歩き始める。
武器屋。薬屋。
装飾品の店や食堂。
歩く度に見える違う店。
(随分と色々な店があるんだな。
さてと、何処に入ろうか─────って、ん?あれは)
ッ。
辺りを感心しながら見回し歩く彼。
そんな彼のエメラルドグリーンの瞳にある看板がふと映り込んで足を止める。
―――。
一つの建物と向かい合うようにして、その場に立った。
此処は、宿屋のようだ。
「宿屋か......」
看板を見上げて呟いた。
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