mirage of story
 
 
 




 
――――。 

今自分の前に立っている兄貴は、もう自分の知っている兄貴では無いのだ。
そう思った。




キトラの知っている兄貴の姿は優しくてかっこよくて、冗談ばかり言っててでも時には真面目で。
そして、何より憧れだった。





でも今目の前に居るこの人は切なくて哀しくて、とてつもなく淋しそう。

キトラの見たことのない兄貴がそこに居た。













「......すまないな。

───もう俺は、お前の兄貴でも何でもない。
お別れだ、キトラ」




ジェイドの声が、静かに虚空に響き渡って空気を微かに震わせた。






........。
と、同時にジェイドは槍を構え小さく何かを唱える。


ッ!
するとキトラを囲むように床に文様が浮かび上がり発せられた光が彼を包む。

きっと、彼は魔術を使ったのだろう。
キトラが気が付いた時には、もう遅かった。








「兄....貴────」



光に包まれゆく中、キトラは求める人の名を呟いてそのまま意識を手放す。

ああ、また大切な人が遠ざかっていく。
その気配を感じて、キトラは漆黒の闇へと墜ちて行った。







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