mirage of story
〜2〜






――――。

目が覚めれば、そこには誰も居なかった。
さっきまで居たはずのあの人はもう居なかった。

在るのは静まり返る空間そのものだけで、他には何もない。 





逃げられた。
目が覚めてそのことに気が付くのに、そう時間はかからなかった。

この空間に居るのは、自分だけ。
空間の支配者もまた自分だった。








「兄貴.....」



そしてこの空間の支配者であるキトラは、自分の記憶の中ではついさっきまで自分の前に居たはずの人の姿を思い出し呟いた。




心から信じていた兄貴。心から求めていた兄貴。
........。
その兄貴とキトラは予想もしなかった展開で再会を果たした。
望んでいた、でも拒んでいた再会だった。



再会の末、在るものは感動、涙。それとも喜びか。
そう思っていた。
そう信じていた。


だが今のこの世界は彼にそんな感動の再会というもの与えてくれる程、優しくはないことに今更ながら気が付いた。
そんなに、甘いものでは無かったのだ。






――――。

再会という名の蓋を開けてみれば、其処に在るのはひたすらの絶望と現実の闇。
信じていた心を裏切られたが故の虚無感。

期待していた再会とは、程遠いものだった。













「────ッ」



キトラはついさっきのそんな光景を思い出して、感情高まる胸の辺りを服の上から掴んだ。

ッ。
指が服の上から、肌に食い込む。








(痛い)



爪が食い込み、じわり感じるはずの痛みは無い。
ただ胸が、胸が凄く痛かった。


チクチクなんてそんな生易しいものじゃない。
鋭く冷たい刃で、身体中を引き裂かれたような痛み。

血は流れることは無いけれど、彼は深い深い傷を負って今此処に居た。



 


.
< 531 / 1,238 >

この作品をシェア

pagetop