mirage of story



 
 
 
 
身体中から体温が奪われる。
絶望が身体中に満ちてくる。

そんな恐怖に、キトラは襲われる。



恐怖は段々濃くなる。
あぁ、怖い。
どうしようもなく、怖い。

浮かぶ兄貴の顔。
兄貴の言葉。









「────俺たちは、もう敵なんだよ」




敵。
その一言だけが頭の中で嫌がらせのように繰り返し響く。

あの兄貴が―――尊敬する俺の理想の兄貴が、ついこの前まで俺の隣で笑っていた兄貴が.....敵?










「そんなこと.....あるわけないじゃないか」




頭に過った現実を、無理矢理に掻き消すように自分に言い聞かせる。
彼の中の思考が自然と押し寄せる現実の波を遮る。

彼は現実を拒絶する。








(だって兄貴はあんなに親しくしてくれた.....あんなに優しかったし、他のみんなとだって楽しそうにやってたじゃないか。

なのに────)






なのに、たった少しの時間で全て崩れ去った。
歪み、憎しみ殺し合うだけの敵になった。

ただ兄貴が部隊という、国という括りから一歩外へと踏み出したそれだけで。
一変、味方から敵になった。



――――。
兄貴の方から、何のはっきりとした理由も告げないでただ一方的に突き放されてしまった。



そんなこと、受け入れられるはずがない。
あまりに、酷すぎる。










「────俺が兄貴を連れ戻さなくちゃ」




突き放された孤独感。絶望感。
その先に、キトラの中に沸き上がってきたのがこの使命感ともとれる感情。




兄貴が、これ以上遠くなってしまう前に。
本当に届かなくなってしまう前に何とかしなければ。

何とかする方法なんて分からない。
だけど....そう本能的に思った。










ガチャッ。






 
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