mirage of story




 
 
 
 
胸の中で、沸き上がる感情。

ッ。
そんな止まらない感情に歯止めを掛けるように、彼の背後の扉が唐突に音を立てる。










「───おぉ、すっかり遅くなっちまったなぁ」


聞こえる今のキトラの心境には合わない暢気な声。





「────おや?
兄ちゃん、客かい?」



キトラの心情とは裏腹に、暢気に部屋へと入ってきた人。
それは、紛れもないこの宿屋の店主である。










「.....誰?」



だが、それを知らないキトラはそう問い掛ける。




「誰、だと?

ハッハッ!おい兄ちゃん。
俺の店に勝手に上がり込んで、誰だってことはねぇだろよ?」 



そんなキトラの問いに、ガハハと豪快に笑いながら男は答える。






「貴方の店?」



店主の言葉に、一瞬戸惑うキトラ。
だが、すぐに意味を理解してハッとする。





「あ....此処、貴方のお店なんですか?」



ようやく状況に気が付き改めて尋ねる。





「だからそう言ってんだろ、兄ちゃんよぉ?

....んで、兄ちゃんは一体誰なんだい?
見た所から言わせてもらうと、ただの客ではないみてぇだが」




店主の親父は、キトラを一瞥してそう言う。
顔は笑ったままだが、幾らかの警戒心が見て取れた。


確かにキトラの今の格好は、羽織る外套の隙間から覗く軍服に腰には短剣が二本ちらついている。
どうやらその姿から、客ではないと判断したようである。




 

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