mirage of story
"シエラ"。
店主の口からジェイドの名前が出た時より、何倍も何十倍も驚いた。
「兄ちゃん?
どうかしたかい?」
明らかに変わったキトラの様子に店主が気が付き声を掛ける。
だが、そんな声も今の彼には遠くに聞こえた。
――――。
頭の中を"シエラ"という名前が支配する。
そしてその名と共に芽生えた一つの疑問が駆け巡り意識は全てそこに行っていた。
(─────何で、どうして兄貴が)
ッ。
思わず手に力が籠もる。
(.......どうして逃亡者なんかと一緒に居るんだよ)
シエラというその名前には聞き覚えがあった。
聞き覚えがあるどころではない。
その名は彼の中に深々と刻み込まれていた。
それは忘れてはいけない大事な名前として、彼の中に存在する名。
そう。
その名前は、今キトラが此処に居る一番の理由。捕らえるべき人間の、逃亡者の名であり獲物の名。
シエラ。
その名が見事に一致した。
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