mirage of story
そう言う彼の顔には、いつもの笑みはない。
ジェイドの綺麗な紅の瞳は恐いくらいに真剣な光を放つ。
ッ。
見るものをゾッとさせるような鋭いその眼光に二人は揃って息を飲んだ。
「おやおや、何だい?あんたたちは。
俺達は先を急ぐんでね。そこ、退いてくれないかい?」
前を向き直ったジェイド。
そんなジェイドは、さっきの鋭い眼光とは裏腹にいつもと同じ軽い調子で、自分たちを取り囲む者たちに向かい口を開く。
だが、相手への警戒は決して怠らない。
「........そういうわけにはいかない」
――――。
ジェイドたちと取り囲む者との間に流れる、嫌な空気。
その空気を断ち切る声が、闇に響き渡った。
ッ。
それは自分たちを囲む者とは、また違う者の声。
闇のそのまた闇から現れた新たな人影が、その声を発していた。
「――――......」
スラリとした人影。
それはゆっくりとこちらに歩み寄り、ようやく空に顔を見せ始めた月によって段々と照らし出される。
不穏な空気とは対照的に、月は穏やかな淡い光を注ぐ。
その月明かりは人影の主を露にして、その光は闇から現れた人物の蒼みがかった髪の毛を照らした。
(ライル)
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