mirage of story
月に照らし出された人の姿。
その人の、彼の放つ哀しい色。
――――。
思わず言葉を失う。
その人は、その場に居る全員が知っていた。
シエラもカイムも。周りを取り囲む者たちも。
そして、ジェイドも。
この場に居る全てが知っている人物だった。
「......シエラ、隠れてろ」
カイムは闇から現れた宿敵のライルの姿に、自分の後ろに居るシエラにだけ聞こえるような声で囁いた。
幸いフードで顔は隠れている。
だが、この状況は決してよいものとは言えない。
「分かった」
ライルの姿に怒りや憎しみそして少しの恐れを抱く彼女は、カイムの背とジェイドの背に挟まれて言葉通りに身体を縮める。
「何で通してくんねぇんだ?
俺達、善良な一般市民。
そんなことしていいのかよ、お偉い軍人さんよ?」
両者の間に流れるのは、不穏な空気。
そんな空気を感じてか感じてないかは知らないが、相変わらずの軽い口調のジェイドが口を開く。
口元にはささやかな笑い。
シエラ達には、この笑いは相手を欺くためのものだということが分かった。
「───フンッ。
善良な一般市民か」
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