mirage of story
ツゥッと血が彼の身体から流れ落ち地を濡らす。
カンッ!
そんな好機を逃すはずもない。
敵の目的はこちらを傷付け殺すことであるはずなのだから、勿論情けなどは無く容赦なくカイムを斬り付ける。
ッ!
そんな刃を彼は片手で何とか受け止めるが、そう長くは保たない。
心の何処かで確信した。
(この剣を....どうにかしないと)
見つめるは腹部に突き刺さった炎を帯びた短剣。
それは未だ彼を蝕む。
こんな物。
――――。
その忌まわしいばかりの短剣を、空いている方の手で無造作に掴む。
ッ。
そしてそのまま力を籠めて思い切り引き抜いた。
「────ア゙ァ.....ッ!」
身体を焦がすような痛み。
そしてその剣を身体から抜き去る時の壮絶な痛み。
二つが重なり合って溜まらず苦痛の声を上げる。
だが、それでもカイムは手を止めない。
この短剣がこの身に在る以上体力は奪われ続ける、そればかりか身動き全ての障害となる。
――――。
自分は痛手を負った。ほんの少しの油断で。
ただでさえ不利な状況を、より不利な状況にして終わるわけにはいかない。
自分が倒れれば、後に残るのは彼女。シエラ。
そうだ。
彼女ためにも、今此処で駄目になるわけにはいかない。
彼女を守るはずが彼女の足を引っ張るなんて、そんなことは仲間として―――男として断固として嫌だと彼は思った。
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