mirage of story
「───ッ!」
ッ。
痛みと共に過るそんな想いを胸に、彼は渾身の力を籠めて自らに刺さる短剣を完全に引き抜いた。
「ハァ....ハァ....」
伴う痛みに、荒げる呼吸。
受けた傷は深いことは自分自身が一番よく判っていた。
あの短剣に帯びた炎は恐らく魔術によるもの。
魔術は常に、魔族の敵である人間に苦痛を与える最凶の武器である。
――――。
だがそんな中でも、彼は立ち上がる。
.......カランッ。
そして抜き去った短剣を地面へと放り投げると、再び自分へと襲い掛かる刃を今度はしっかりと受け止めた。
「やられてばかりでは、居られない!」
ザンッ!
受け止めた剣を横へと凪ぎ払い、彼はそのまま敵へと突進する。
「何!?」
相手は突如の反撃に怯み剣を咄嗟に受け止める。
激しくぶつかり合う剣に火花が散る。
甲高い音が空を貫いた。
力は互角。
だが力を籠める度に傷口から滴る血が体力を削ぎ、カイムの方がやや劣勢に見えた。
「負けは....しない!」
だが、彼は強かった。
剣の腕もそうであるが、それ以上に心が。
――――!
相手を押し切り、その懐に剣をねじ込む。
ザンッ、ッ!
「ア゙ッ!」
鈍い音と断末魔。
その数秒後、辺りに血肉が飛び散った。
返り血が剣を握り締めるカイムを紅く染め、それで流れていた自分の血が同化して分からなくなる。
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