mirage of story
少しよろけた。
だが今度はしっかり地に足を付けた。
「..........大方、敵は逃げたみたいだけど。
でも――――」
立ち上がり辺りを確認するカイム。
........。
今、自分たちが置かれている状況を把握し口を開く。
周りには、敵は居ない。目に見えていないだけでなく、今この空間に自分達に向けられる殺気は感じられない。
先程のカイムの攻勢。
それに恐れを抱いた魔族達は、きっと誰かが発した言葉通り何処かに退いたのだろう。
「......」
でも。
「だけど俺には奴が、ライルがそう簡単に引き下がるとは思えない。
あの瞳はそんな生半可なものじゃなかった。
奴だけは他の奴等とは格が違う.......そう人間に対する憎悪の濃さも、他の奴等とは格段に違う」
敵が退いたことに抱くのは安堵感だけで無かった。
抱くのは大きな気掛かり――――ライルのこと。
本当ならばきっと真っ先にシエラの命を狙ってくると思っていた彼が戦闘が始まってから見えない。
ライルの瞳に宿っていた憎しみと哀しみの色。
あの彼が因縁を付けるシエラと剣を交えること無く退くことは有り得ないということは、あの瞳からだけでも察することが出来る。
「───まだ奴が、何処かに居るかもしれない」
他の兵たちが逃げた今でも、油断は出来なかった。
「でも姿は見えないわ。気配も近くには感じない。
.......一体、何処に」
カイムの発した気掛かりに、シエラも辺りを確認する。
―――――。
でも幾ら確認しようとも、やはりその姿は無い。
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