mirage of story
 



 

 
ッ。
彼は静かに指輪を見つめた。






(......一体此処は何処なんだ?

そして何故今までずっと俺の前に姿を現さなかった貴方が此処に居る?
此処は貴方が作り出した世界なのか?)




指輪に視線を置いたままに炎竜に問う。


そう。
此処は確実に自分が先程まで居た場所ではない。

記憶の途切れる前。
此処はジェイドと戦っていたあの場所とは明らかに違う場所。











"......お前は先程のあの魔族との一騎打ちに敗れ危うくもその命を失い掛けた。

だから我はお前の命が消えてしまうその前に───この空間へと連れ出した"



炎竜は彼に告げる。







(そうか――――俺はジェイドとの戦いで)



ライルは炎竜のその言葉に、何処か染々とした口調で答えた。

答える彼の声。
それは何か諦めたような、納得したようなそんな声だった。










(でも....でもどうやってあの状況から?)




"我を見縊るでない。
空間を作り出し、お前を連れ出すことなど造作もないことよ。

我はお前と契約を交わした。
お前が死にそうになった時それを助けるのも我の役目、我にはお前を生かす義務が在る。

だから我は、お前の前に現れた。
....時が満ちる、その前にな"




今度は炎竜がフッと笑いを帯びた声で言う。

――――。
その言葉。
それを聞く彼の表情に微かに陰が落ちた。










(時が....満ちる前か)



その声には、どうしようもないくらいの哀しさが見えた。

ッ。
炎竜もその陰に気が付いたのだろうか、両者暫く黙り込み場の空気が少しだけ静まる。













(なぁ、炎竜。
............その時というのは、まだ俺にやってきてはくれないのか?
まだ俺に力を与えてはくれないのか?)




静まった空間。
暫らくの沈黙。

そしてその後、ライルの何か決意の籠もった問い掛け。






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