mirage of story



 
 
 
 



(...........なぁ炎竜、俺は今まで充分すぎる程に時を過ごし死に物狂いで努力した。

―――教えて欲しいんだ。
いつになったら、その時は満ちる?今の俺には何が足りない?)






縋るように。
求めるように。
ライルの言葉が、炎竜へと向けられる。

流れ落ちこそしないが、ライルの綺麗な蒼い瞳には透明な煌めきを放つ涙の雫が、寸前の所で留まっていた。












".........。
時は必ず満ちる。だがそれは今ではない。
今のお前には、荷が重すぎる"



そんな彼に炎竜の静かでそして冷静な言葉が響く。
その言葉が一つ一つ鋭く小さな朿となって、彼の繊細な心に傷を付けていく。









(..........確かに俺は、お前の力を受け入れられる程の器じゃないかもしれない。

だけど心なら!命を掛けてまで遣り遂げなきゃならないことをやり通す強い気持ちなら、誰にも負けはしない!

駄目なのか?心だけでは。
今のままの俺では何も為せない.....何も守れないんだよ、炎竜。
力が、力が必要なんだ)



胸に突き立てられた小さな朿の痛みを無理矢理に押さえ込め、ライルの悲痛な言葉が響いた。

泣きそうな、でもそれを必死に我慢している強いようで弱い彼の叫び。
痛いくらいに、空間に響く。








"お前には我を受け入れるだけの器は十分にある。心もどんなことがあっても崩れない程に強い。

.............だが、今のお前には無理なのだ。
今のお前は、大事なことを忘れている。それを思い出さぬ限り、力を手に入れたとしてもお前はその力に飲まれ大切なものをまた失うだけだ"





(忘れている?
..........一体俺が何を忘れているというんだよ?

分からない、俺は忘れていることなんて無い―――ルシアスのこともあの悲惨な戦いも現実も何一つ忘れちゃいない!
一体俺が何を忘れているという!?教えてくれ、炎竜!)



静かに響く炎竜の言葉に、対照的な程感情的な言葉がまた空間を震わす。






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