mirage of story
燃え盛る炎の中、男はふと壁を見る。
ッ。
するとそこには先程までは無かったはずの一本の矢。
男は誰かの手によって火が放たれたことを自覚した。
仮にも此処は魔族軍の駐屯地。
そこに火が放たれる。
それはつまり敵襲を意味していた。
───。バンッ!
男は自分の置かれている今の状況を認識し、何とか此処から脱出しようと焼け焦げる扉に勇気を出して身体をぶつけた。
扉がその衝撃で開け放たれて新しい空気が流れ込む。
扉の外の空気。
だがそれと共に、何とも嫌な鼻を突くような異臭が男の嗅覚を刺激した。
「.......ッ!」
状況は、想像を遥かに越えて悲惨だった。
建物全てに火が放たれて、あちらこちらに蹲るように大きな塊が転がっていた。
その塊はこの鼻を突く異臭の源であり、また男の仲間だった。
........数刻前まで仲間だったはずのものだった。
生きている気配は自分以外はなくただ炎が燃える音だけが響く。
燃え上がる炎は、夜の闇の中で何処か楽しそうに揺らめいていた。
「......」
男は自分しか居なくなったこの場所を、そしてもう動かなくなった同僚たちを一瞥してグッと感情を堪えるように背を向けた。
男は兵士。
この場所が敵襲を受けた今、仲間の死を憂いている暇はない。
やるべきことは、一つ。
この事態を、いち早く城に.....王に伝えなければ。
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