mirage of story
だが、その指輪には一つだけ他の指輪と違うところがあった。
それは。
「......これは、かの時代に行方知れずとなったあの―――水竜の指輪か?」
その指輪が、他の指輪とは明らかに異なる唯一のこと。
それは、指輪に埋め込まれた淡く蒼色に煌めく石。
煌めく石のその中に、その魔族の王であるその人は一匹の竜を見た。
その竜は人の手によって刻まれたものでも、石の中に埋め込まれたものでもない。
その指輪の中の竜は、指輪の蒼色に煌めく石の中で生きているようだった。
魔族の王であるその人は、暫らく無言でその指輪に見入っていた。
煌めく石の中で揺らめき輝く竜は、いつまで見ていても飽きさせない。何か人を引き付けるものを感じた。
水竜の指輪。
見たことなどは無かったが、その名に覚えがあった。
それはかつて世界が壊れ行くことのきっかけになった指輪。そしてその壊れ行く世界を、再生させ復活へと導いた聖なる指輪。
水竜の指輪。
それは、二つある竜が石の中に刻まれた指輪のうちのひとつで、その名は石に宿る美しき蒼色の竜を見た人がそう名付けたと伝えられている。
もう片方は炎竜の指輪と云われていて、淡い紅色の石の中には紅の竜が刻まれているという。