mirage of story
だがその二つの指輪は共にずっと行方知れずで、いまや伝説の指輪とまで称された物。
城のこんな寂れた倉庫の中に眠っているなど、誰も考えもしない。
信じられることではなかった。
「......間違いない」
魔族の王であるその人は、確かめるように改めて指輪をまじまじと見つめて、感嘆の溜め息と共に呟いた。
見たこともない。ただ伝説としてだけ伝わってきた指輪。
そんな指輪を、一目見たそれだけで判るなど可笑しいことかとも思えるが、その人の中には底知れぬ確信のようなものがあった。
その魔族の王には秀でた歴史の知識も、また考古学の知識もない。
ただ何か直感のようなものが、これは水竜の指輪であるという確信を導いている。
それは恐らく、この指輪から感じる溢れるような未知の力が、そう感じさせているのだろう。
そのオーラのような、気迫のような力。それが人を引き付けていた。
――――ゴクリッ。
指輪を手にしたその魔族の王である人は、喉の奥から込み上げてきた唾を飲み込んだ。
この指輪をはめてみたい。
そんな欲望に似た衝動が襲う。
衝動に襲われると同時に、自ずと指輪を持った手がもう片方の自分の手へ。
そして指へと近付いていく。