mirage of story
指が一本ずつ剥がされて、全ての指が取り払われて視界が明るくなる。
.....ッ。
その瞬間。
無数の映像のようなものが、何もない空間の中を駆け巡った。
「な....何だ!?」
目の前を、まるで走馬灯のように駆け巡る映像。
その映像は、魔族の王であるその人の記憶にはない新たな記憶。
それが一気に押し寄せて、目の前で迸り繰り広げられる。
空から降る蒼と紅の光。
平和に暮らす人々。
二つの指輪。
壊れる世界。壊れる人。
そして絶望に打ち拉がれる人々と、それを見つめる二匹の竜。
知らないはずの、見たことのないはずの映像。
次々と迸るそんな映像に、魔族の王であるその人はただ戸惑い立ちすくみ、見つめることしか出来なかった。
『.........これは、我等が人と共に歩んだ古の記憶だ』
目の前で繰り広げられる映像の波が終局を迎えて、また何もない空間に戻った。
また何もなくなった空間で立ち尽くすその人。
そんなその人に、何処からか唐突に響いた声が囁いた。
その声は耳から入ってくるのではなく、まるで頭の中に直接語り掛けてくるような感覚だった。
魔族の王であるその人は、声の主を捜そうと何もない空間で辺りを見回す。