mirage of story
 
 
 
 
 
 
 
『――――竜とは、それほどまでに珍しきものなのか?』



食い入るように見つめるその人に、水竜は問う。

その声はやはり目の前に現われても、耳からでは頭の中に直接流れ込んでくる感じで、何か変な感じがした。






「ッ!すまない。

珍しいも何も、竜というものは古の伝説の存在。この目に掛けたことなど、一度もない。
......しかし竜というものが、こんなに気高く美しきものであったとは」



暫らくの間、食い入るように見つめていたその人は水竜のその問い掛けにハッとて、我に返ったように答えた。






『.....古の伝説の存在、か。
当然か。今のこの世界に我々竜は、存在すらしていないのだからな。

封印というものは、時は疎か存在をも消し去ってしまうものとは。
―――恐ろしいものよ』




水竜は魔族の王であるその人の言葉に、どことなく哀しげに俯いて少し声を低めてそう言った。

何だかその声は憂いに満ちていて、聞いているこちらが切なくなるようだ。
魔族の王であるその人は、哀しげに俯く水竜に目を向けてそんな水竜の意を感じたのか、静かに口を開いた。







「竜というものは気高き存在故、我等人の知るところではないということなのだろう。
―――お主の姿を見れば、皆きっと竜というものの存在を信じるはず」






 
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