mirage of story
改めて降臨した美しい水竜の姿を目前に、魔族の王であるその人はそう言いながら、その頭の中にある一つの疑問が浮かんで来るのを感じた。
「―――水竜よ。
お主に一つ問いたいことがある。
お主ら竜たちは、何故この世界から姿を消したのだ?
お主たちのような美しく、気高き存在が。私はお主の姿を前に、それが疑問でならないのだ」
今の世界。美しいものと言ったら、地を流れる清らかな水の流れ。まるでステンドグラスををはめ込んだように煌めく空。
地の果てにひっそりと咲く、花々。風に揺れる木々。
すべてが全て、古の時代からこの世界に存在したもの。
どれも、今この世界で我がもの顔で生きる"人"が作り出したものではない。ただずっと、静かにこの世界に在り続けたものだった。
世界が崩壊したあの時、一時これらの美しいものたちも世界から消え去った。
だが、それはほんの一時。
世界が再生されていく過程で、それらの美しいものたちも再生されていった。
「遥か昔、あの世界が崩壊した時よりも遥か前から存在していた竜。
そんな古の時代から存在し続けたお主たちは、何故この世界から姿を消したのだ?
古から在りし美しきものは、その殆んどがまだ存在してこの世界を彩っておるというのに」