mirage of story
その勘違いは、人がこの世界で生きてきた長い年月の間に築き上げられたものであり、今ではもうすでに人の中では常識と化していた。
そんな不条理な常識の中で生きてきた魔族の王この人も、もちろん例外ではなかった。
常識化され、本人の中にはそんな意識はなかったものの、やはりその人の血の循る身体の中に息づいているようで
そのことに、人を遥かに超越した竜を前に初めて気付かされた。
竜は本当に偉大であった。
人などは、ちっぽけな存在であることを思い知った。到底、人は竜には及ばないということがこの水竜を前に身に染み渡った。
「......今まで人は、世界の何を見てきたのであろうな。いや、何も見えてはいなかったのかもしれぬ。
我々人は―――なんて愚かな存在なのだろう。この壮大な世界をこの手になど。
世界の何も知らないというのに、それにさえ気が付かないで」
魔族の王であるその人は、人としての自分を―――そして未だこのことに気付きもせず、世界を生きる同胞を恥じた。
魔族の王であるその人は、水竜と目を合わせて居られなくなって、下へと逸らす。
そして雪崩るように、膝を付きそのまま跪くような形で水竜と向かい合った。