mirage of story
黙り込むその人の姿に、水竜は問い掛けた。
水竜の澄んだ蒼い眼が、その人の姿を映して離さない。
『さぁ、答えよ』
―――――ッ。
促す水竜の声に、今まで跪くように俯いて黙り込んでいたその人が不意にスッと立ち上がる。
顔を下に向け俯いたままに、魔族の王であるその人は水竜と向かい合った。
『お主がこの世界に望むのは―――平和か?それとも破滅か?』
立ち上がるその人の姿。
その姿に、水竜はもう一度同じ言葉を問い掛ける。
「私は.....」
平和か破滅か。
両極端な答えを迫られたその人が、口を開く。
「.....私はこの世界が好きだ。今のこの平和である世界が。
破滅など―――望まない」
魔族の王であるその人は言った。
破滅を望まない。
そう言ったその人の瞳を水竜は見据えて、そしてそれからフッと笑った。
『......どうやらお主の前に姿を現したのは、間違いではなかったようだな。お主のその瞳。その瞳に宿るのは、我等と同じ志だ。
その瞳を見込んでお主に、もう一つ問おう』
「.....あぁ、答えようとも」
『.....人の子よ。我と―――この水竜と契約せぬか?
世界を平和に保ってゆくそのために、手を組んではくれまいか?』