mirage of story
偶然とはいえ、いい物を見付けることが出来た。
この本にしろ、指輪にしろ。
(あ.....忘れるところであった)
そんなことを思っていたら、私の頭に指輪の存在が舞い戻ってきた。
そうだ。
私には、やらねばならないことがあった。
そう思い、私は差し出した本を戻し腕に抱えた。
「.....そのようなことよりも、私には早急にやらねばならぬことがあったのだ。
私は上に上がる。
お主は先に上がり、隊長格の者たちを私の部屋に召集を掛けるのだ。重要な話がある、さぁ行け」
「はっ!」
本を食い入るように見ていた兵は、ハッとしたように私に目を向けた。
そしてバッと飛び上がると、私に敬礼をして私の言ったようにすべく地上への続く階段へと駆けていく。
足音が遠ざかっていくのを感じて、私は一つ大きく息をついた。
――――ッ。
そして本を抱え込んだ腕を懐に伸ばして、手探りであの指輪を捜して手に取る。
「もう一つ....炎竜の指輪を一刻も早く捜し出さねばな」
懐から取り出して少し温かくなった指輪を、私は手の中に握り締めた。
握り締めた指輪に、あの不思議な夢のような空間で見た水竜の姿を思い出す。
あやふやで曖昧な空間で見た、はっきりとした水竜の美しい姿。
今思い出しても夢だったのかと疑ってしまうが、私の中でははっきりと刻まれた水竜との会話が谺する。