mirage of story
「......でも、ジェイドさん。
そのシエラの持ってる水竜の指輪って、それ相応の魔力を持った水竜に認められた魔族にしか扱えないって俺聞いたことがあるんです。
ロアルが手に入れたところで、そう簡単に扱えるような代物でもないような気がするんですけど」
ジェイドとシエラの会話の中に、窓を閉めて読みかけだった本を棚にしまおうとしていたカイムが割って入る。
「あぁ、確かにあの竜刻の指輪―――つまり嬢ちゃんが持ってる水竜の指輪ってのは、相当の魔力を持った奴じゃねぇと扱えねぇって話は聞いたことがあるな」
「それなら、どうしてロアルはこの指輪を求めるんでしょうか?
自分でこの指輪を扱えないんなら、意味がないのに」
カイムの言葉は続く。
「ジェイドさん.....一体、ロアルは何をしようとしているんですか?」
「.....さてな。俺も詳しいことは知らねぇんだよ。
まぁ、何か良くねぇことを企んでるってのは確実だろうな。
あのおっさんの目を見てりゃ分かる。あの目の先に見えてるものは.....並大抵のもんじゃねぇよ」
スッとジェイドの紅い瞳に陰が落ち、声のトーンも幾分か落ちた気がした。
確か前にも―――ジェイドと出会ったあの日にも、今と同じジェイドを垣間見たことがあった。
いつもは何に対しても楽観的、というか適当な感じで物事を深く考えていないような彼。
そんな彼がほんの一瞬見せる、こんな真剣な表情。